自転車がつくる未来 世界最先進地ヨーロッパより

⓬サイクルツーリズムが自転車利用者を増やす

自転車の楽しい経験が利用促進に繋がる

自転車が使いやすい社会をつくるキーは

 この連載でみてきたような、自転車が使いやすい社会を日本でもつくるにはどうすればいいのでしょうか? そのためのキーは、私は自転車を楽しんでもらうことだと思います。
 今、日本ではビワイチをはじめとする自転車を使った観光、サイクルツーリズムが注目されています。そのサイクルツーリズムの本場はヨーロッパで、私が観た印象ではドイツが最先進地です。

サイクリングが一番人気のドイツ

 ドイツでは、自分でするスポーツで一番人気なのはサイクリングだと言われます。年間のべ2億5千万人が自転車旅行に出かけているというデータがあります。ドイツの人口は8千万人ほどなので、一人あたり年3日以上、自転車で旅をしていることになります。ドイツで最も人気のサイクリングルートガイドブック、「bikeline(バイクライン)」シリーズはドイツやその周辺の国のコースを掲載したもので、300種類近くも販売されています。
 日本でサイクルツーリズムというと、体にぴったりしたサイクルウェアに身を包み、高速で走っている人たちを連想しがちです。しかし、ドイツでは日本と違い、家族連れや高齢の夫婦などが、ゆっくりと、しかも何日もかけて長距離を走るのが主流です。国中に22万キロにもおよぶサイクリングルートが網の目のように整備されています。

ドイツで一番人気と言われる、ヴェーザー川サイクリングルートでサイクリングを楽しむ人々

サイクリングルートガイドブック、「bikeline」シリーズの表紙

自転車の良さを広げたい

 ドイツには会員が18万人もいるADFC(全ドイツ自転車クラブ)という組織があります。そこの本部で聞いた話では、「サイクリングを楽しむことで自転車が好きになり、日常生活でも使う人が増えてきた。政治家たちも若い頃に自転車で楽しい経験をしてきたので、それが自転車利用の推進に繋がっている」ということでした。

 日本でも、環境や健康に良く、住みよい地域をつくっていくため、自転車の良さ・楽しさを広める活動を続けていきたいと思います。(終わり)

「滋賀民報」2023年7月9日号より

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自転車がつくる未来 世界最先進地ヨーロッパより

⓫レースが自転車文化をつくる

大人気の自転車レース「ツール・ド・フランス」

世界の自転車レースの最高峰

 世界の自転車レースの最高峰といえばツール・ド・フランス。オリンピック、サッカーワールドカップに並ぶ世界3大スポーツイベントとして挙げられることもあります。
 2022年7月1日、デンマークのコペンハーゲンをスタートし、3日間デンマーク国内を走った後、約3週間かけてフランス各地をめぐり、7月24日にパリのシャンゼリゼにゴールしました。その、初日とゴールを観てきました。

交通を止めて、何万人もが観戦

 2日目以降は、連日200km前後を走りますが、初日は短距離のタイムトライアルです。
 コペンハーゲン中心部の交通を止めて、13.2kmのコースが組まれ、選手が順にスタートしてタイムを競います。レースは午後から始まるのですが、午前中はそのコースを誰でも自由に走れます。市内の見所をめぐる、観光としても面白いコースです。そして、午後からのレースは何万人もの観戦者でごったがえします。
 街の中心部の交通を止められること、これだけの人が集まるということは、いかに自転車レースに人気があり、社会に受け入れられているかということを感じます。

コペンハーゲン市内のタイムトライアルコースを自由に走る人々

欧州で自転車政策が進む背景に

 パリのゴールでもシャンゼリゼや凱旋門の周辺の交通を止めてコースが組まれ、やはり何万人もの人が集まりました。個人総合優勝はデンマークスタートに合わせたように、デンマーク人のヨナス・ヴィンゲゴー選手でした。優勝者はまさに国民的ヒーローです。コペンハーゲンで行われたヴィンゲゴー選手の凱旋パレードにも数万人の観衆が集まったそうです。

パリ・シャンゼリゼでのラストスパート。デンマークの国旗を掲げた応援団も(22年7月24日)

 このように自転車レースが国民的イベントになっていることで、子どもたちは選手に憧れ、自転車に乗るようになります。また、一般の人たちの自転車に対する理解も進みます。欧州で自転車政策が進む背景には、自転車レースの文化がある、ということを改めて感じました。

「滋賀民報」2023年6月11日号より

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自転車がつくる未来 世界最先進地ヨーロッパより

❿ヨーロッパで見かける様々な自転車

2人乗りタンデムや自転車カフェも

寝転がって乗る自転車

 連載ではこれまでカーゴバイクやE-Bikeを紹介してきましたが、ヨーロッパでは他にも様々な自転車を見かけます。例えば、2人乗りのタンデム自転車。日本では元々、多くの都道府県で走行が禁止されていたのですが、ここ15年ほどで走れるところが増えて、現在では東京都以外は走行が可能になっています(※2023年7月から東京都でも走れるようになりました)。ヨーロッパでは、以前から時々走っているのを見かけます。

 【写真①】は、スイスで出会ったご夫婦の2人乗り、かつ前の人が寝転がって乗る自転車でです。荷物運搬用のトレーラーも引っ張っています。普通のタンデム自転車は、後ろの人は前が見えにくいのですが、これなら、後ろの人も前がよく見えます。寝転がって乗る自転車はリカンベントと呼ばれます。1人乗り用もよくあり、空気抵抗が少ないのでスピードが出ますし、腰にも負担が少ないという利点があります。
 オランダでは、【写真②】のような、自転車にも出会いました。

【写真①】前がリカンベントになっているタンデム自転車

 

【写真②】横に並んで乗る2人乗り自転車

仕事にも使われる様々な自転車

 自転車は仕事にも使われています。【写真③】は、ドイツの宅配便用の自転車です。日本でも最近はヤマト運輸や佐川急便が街中での配達に自転車を使っていますね。
 【写真④】は、デンマークの自転車カフェです。
 こんないろいろな自転車が普通に使えるのも、自転車道が整備されていて、車も自転車に気を遣ってくれるためです。日本でもこんないろいろな自転車がもっと使えるようになればいいですね。

【写真③】宅配用自転車

 

【写真④】自転車カフェ

「滋賀民報」2023年5月14日号より

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自転車がつくる未来 世界最先進地ヨーロッパより

❾欧州最大の自転車展示会「ユーロバイク」

「自転車こそが未来の乗り物だ」とアピール

ドイツの玄関口フランクフルトで

 2022年7月13〜17日、欧州最大の自転車展示会「ユーロバイク」がドイツで開催されました。一昨年までは、ドイツ南端近くにある小さな街、フリードリヒス・ハーフェンで開かれていたのですが、昨年から国際空港もあるドイツの玄関口、フランクフルトでの開催になって、行きやすくなりました。一般公開も1日だけだったのが、2日間になり、その一般公開日の16、17両日に見学に行ってきました。

「ユーロバイク」の試乗コースで自転車に乗る人々

展示の中心はE-Bike

 日本でも「サイクルモード」というスポーツ自転車の展示会が毎年東京と大阪で開催されていますが、「ユーロバイク」は、東京での展示会の5倍くらいの広さがありそうでした。今回のテーマは「Hello Future(未来よこんにちは)」。「自転車こそが未来の乗り物だ」とアピールしています。
 また、自転車好きの向けの「サイクルモード」と違って、一般向けの自転車が展示の中心です。一般向けと言っても欧州の自転車は日本の「ママチャリ」とは大きく違います。展示の中心は既にE-Bike(電動アシスト自転車)です。日本で一般的な電動アシスト自転車よりもスポーツ自転車に近く、アシスト制限も日本よりゆるく、スピードが出ます。

欧州で一般的なE-Bike

目立つカーゴバイク

 展示で目立ったのが、カーゴバイク(荷物運搬用自転車)です。欧州では、ガソリンなどの燃料費の高騰で、街中での荷物の運搬はトラックからカーゴバイクに変わりつつあります。家庭でも子どもを乗せたり、荷物を運んだり、時には大人も荷台に乗ったりと一般的に使われています。最近は電動アシストがほぼ標準装備となり、大きな荷物も無理なく運べます。
 残念ながら日本のメーカーは、世界的な自転車部品メーカーのシマノ以外ほとんど目立ちませんでした。日本の多くのメーカーは「ママチャリ」を中心に国内ばかりを向いて、ガラパゴス状態になっています。

「滋賀民報」2023年4月9日号より

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自転車がつくる未来 世界最先進地ヨーロッパより

❽列車にそのまま自転車が載せられる

とても便利な自転車、車椅子などの専用車両

日本の鉄道でも

 滋賀県では、近江鉄道で一部の路線を除いて自転車がそのまま載せられます。和歌山県の紀勢線、紀伊田辺〜新宮間でも昨年から自転車がそのまま載せられるようになりました。このように日本でも自転車を載せられる列車が増えていますが、ほとんどが乗客の少ない路線での実施です。
 西欧の多くの国々では何十年も前から、列車に自転車をそのまま載せられ、当たり前になっています。

ドイツでは、ほぼすべての列車に

 次の写真はドイツの快速列車で、自転車や車椅子、ベビーカーなど大きな荷物がある人専用の車両が連結されています。

ドイツ鉄道の快速列車(車両の横に自転車マークが付いている)

自転車用車両の中の様子

 ドイツ鉄道では、日本の新幹線にあたるインターシティーエクスプレス(ICE)を除く、ほぼすべての列車に自転車がそのまま載せられます。自転車の料金は距離や路線によって違いますが、無料から、距離が長くなると数千円程度まで。週末などには、サイクリングに行く人で自転車用車両がいっぱいになるのは見慣れた光景です。数年前から走り始めたICEの新型車両、ICE4にも自転車用の車両が連結されるようになりました。
 ただし、駅の設備は最近でこそエレベータのあるところが増えてきましたが、以前は階段の横に自転車の車輪を乗せるレールがあり、そこを押して上がるのが当たり前でした。今でもエレベータがなく、階段の横のレールすらなくて、自転車を担いで上がる必要のある駅もときどきあります。そんな玉に瑕な点もありますが、自転車を載せられるのは非常に便利です。

公共交通の利用促進に

 昨年、私がドイツに行ったときには、コロナ禍で利用者が減った公共交通の利用促進のため、1ヶ月9ユーロ(約1300円)でドイツ全土の普通列車・快速列車が乗り放題になる「9ユーロチケット」が販売されていて、私もずいぶん活用させてもらいました。そんな自転車と公共交通の利用促進策、日本もぜひ見習ってほしいですね。

「滋賀民報」2023年3月12日号より

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自転車がつくる未来 世界最先進地ヨーロッパより

❼様々なサービスが受けられる駅前駐輪場

自転車の修理、販売、レンタル、洗車機も

ドイツの駐輪場は

 ヨーロッパでも、最寄りの駅まで自転車で行きそこから列車で通勤する人は一般的で、駅前には駐輪場が設けられています。写真は、「ドイツで一番自転車にやさしい街」と言われるミュンスターの駅前駐輪場です。右側に少し見えている赤い建物が駅舎で、その目の前にあります。斬新なデザインのガラス張りの建物が入り口。スロープを降りた地下に、日本の駅前駐輪場にもよくあるような2段式のラックが並び、3300台の自転車が収納できます。

ミュンスターの駅前駐輪場入り口

子ども乗せや荷物運搬用も借りられる

 日本と違うところは、駐輪以外に様々なサービスが用意されていることです。まず、自転車整備士が常駐し自転車の修理を行ってくれます。朝、出勤時に自転車を預けておけば、帰りには修理ができているということです。自転車用品や自転車自体も販売されています。自転車の自動洗車機やコインロッカーもあります。レンタサイクルも用意されています。通常の自転車だけでなく、子供乗せ自転車、チャイルドトレーラー(子供を乗せるリアカー)や、タンデム(2人乗り)自転車、リカベント(寝っ転がった姿勢で乗る自転車)、カーゴバイク(荷物運搬用自転車)なども借りられます。荷物を運びたいときは駐輪場に行ってカーゴバイクを借りればいいのです。

様々なタイプのレンタサイクル

オランダで進む駐輪場の整備

 自転車先進国のオランダは、以前は駐輪場に関してはドイツより見劣りしたのですが、近年急速に立派な駐輪場が整備されています。自転車先進都市として知られたユトレヒトの中央駅前に19年、1万2500台収容の世界最大の駐輪場がオープンしました。特徴は3階建の駐輪場のどこのフロアにもスロープで自転車に乗ったままスピードを落とさずに入っていけるということです。
 日本の駐輪場も収容台数ではヨーロッパに負けてはいないのですが、サービスに関してはぜひ見習ってほしいものです。

「滋賀民報」2023年2月12日号より

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自転車がつくる未来 世界最先進地ヨーロッパより

❻オランダの自転車道ネットワーク

車より自転車の方が速くて便利な街

人の数より多い自転車

 オランダでは、街の郊外に出てもどこまでも車道と独立した自転車道が続きます。「外国人は間違えて車で自転車道を走ってしまう」と言われるくらい広い自転車道です。網の目のように国中に張り巡らされ、自転車道だけでどこへでも行けます。
 オランダでは、「人の数より、自転車のほうが多い」と言われます。生活用とサイクリング用など一人複数台自転車を持っているのが普通だからです。

車は役に立たない

 オランダで4番目に大きな街・ユトレヒトの郊外に、自転車を交通の中心に計画的につくられたハウテンという街があります。人口5万人ほどのベッドタウンです。駅付近には車が1台もなく、走っているのはすべて自転車です。

ハウテンの駅前風景(正面の建物が駅。走っているのはすべて自転車)

 街の構造は輪切りにしたミカンを想像してもらうとわかりやすいです。中心に駅があって、ミカンの袋のようにいくつかのブロックに別れています。車でブロックの間を移動しようとすると、一度街を取り巻く環状道路(ミカンの皮の部分)まで出てぐるっと回る必要があります。一方、自転車は、自転車道が駅を中心に放射状に各ブロックをつないでいるので最短距離で移動できます。車は街中では役に立たないので、走っている車はほとんどありません。子どもも自由に自転車で走り回っています。ユトレヒトとの間も、当然自転車道でつながっています。

通勤用の自転車高速

 次の写真はナイメーヘンという街の自転車高速道路です。ナイメーヘン中央駅と街北部に新しく開発された住宅地の約2kmを結んでいます。すべて高架で途中に交差点や信号がなく、ノンストップで走れます。街の郊外に住む人々が車を使わず、自転車で通勤するように作られたそうです。

ナイメーヘンの自転車高速道路

 このように、オランダの道はどこへ行っても自転車に便利なようにネットワークが作られています。車より自転車のほうが早くて便利な街です。

「滋賀民報」2023年1月15日号より

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❺世界一の自転車先進国・オランダ

首都アムステルダム中心部は交通の半分以上が自転車

自転車の多い街

 世界で最も自転車利用環境の整備が進んだ国はオランダでしょう。オランダ全体で通勤・通学の交通のうち3割以上が自転車と言われています。
首都のアムステルダム中心部では、交通の半分以上が自転車で、本当に自転車の多い街です。

メインストリートのダムラック通り(正面の建物がアムステルダム中央駅)

 上の写真は、メインストリートで、正面の建物が東京駅のモデルになったとも言われるアムステルダム中央駅です。この道は、かつては両側で4車線の車道だったそうですが、今では、写真の左から、広い歩道、自転車道、トラム(路面電車)、一方通行1車線のみの車道、反対行きの自転車道、そして再び歩道というように、まさに歩行者、自転車、公共交通が平等に分け合っています。この道だけが特殊なのではなく、アムステルダム市内ではこのような道が普通です。車線は、車の幅ギリギリしかなく車は時速30kmくらいでゆっくり走っていて、人口80万人という街の規模の割に車は少ないです。

車はゲスト

 下の写真のような道もあります。「自転車通り 車はゲスト」と書かれており、ここでは車は自転車を追い抜かしてはいけません。

自転車優先道路(路上には「自転車通り 車はゲスト」の文字が)

 自転車が歩道を走ってはいけないのは当然ですが、歩行者が自転車道を歩いても、すぐに自転車の人に怒られます。また、大陸部のヨーロッパでは車は右側通行なので、自転車も必ず右側通行です。逆走しようものなら、やはりすぐに怒られます。自転車が次々と時速20kmくらいのかなりのスピードで走ってくるので、人が歩いたり、逆走なんかすると危なくてしょうがないです。
 交差点では、車の前で自転車が信号待ちできるようになっていますし、街なかのあちこちに駐輪ラックが設けられています。オランダでは、自転車の利用を増やすには、とにかく利用環境を整備すること、という考え方だそうです。

「滋賀民報」2022年12月11日号より

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自転車がつくる未来 世界最先進地ヨーロッパより

❹コペンハーゲンの自転車道

世界一走りやすい、自転車に優しい街

ツール・ド・フランス

 世界最高峰の自転車レース、ツール・ド・フランス。今年のスタートはデンマークのコペンハーゲンで、かつデンマーク人が総合優勝したことで、デンマークが大いに盛り上がりました。コペンハーゲンがスタート地点に選ばれた理由は、自転車インフラが整備され、自転車が人々の日常に根付いているからだと言われます。常に世界の自転車に優しい都市のトップを争う街です。

自転車用の信号が

 市内の広い道には必ず両側に、車の1車線分ほどの幅の自転車道が整備され、歩道とも車道とも数センチの段差が付けられています。世界各地を自転車で走ってきましたが、幅の広さと道の両側に必ず自転車道があるという安心感で、コペンハーゲンの自転車道は世界で最も走りやすいと思います。交差点には車や歩行者用の信号とともに、自転車用の信号があり、自転車を優先するために車の信号より数秒先に青になります。

コペンハーゲン市内の自転車道(手前の自転車がクリスチャニアバイク)

車なしの生活ができる

 コペンハーゲンでは、通勤・通学の交通の半分を自転車が占めています。自転車が3台並んで走れる、自転車の前に大きな箱に子どもや荷物が載せられる「カーゴバイク」を追い越しできるように、幅の広い自転車道が確保されています。
 カーゴバイクがよく使われており、子どもが2人以上いる家庭の26%がカーゴバイクを持っています。市内にクリスチャニアというヒッピーたちのコミュニティがあり、そこで車がなくても生活できるようにと開発されたカーゴバイク「クリスチャニアバイク」が有名です。
 コペンハーゲン市内には多くの水路があり、近年は車より自転車が早く移動できるように、その水路をまたぐ自転車用の橋が次々と整備されています。ここ数十年で架けた橋はすべて自転車・歩行者用とのことです。

「スネーク」と呼ばれる自転車専用の橋

「滋賀民報」2022年11月13日号より

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自転車がつくる未来 世界最先進地ヨーロッパより

❸急速に自転車都市化が進むパリ

車を使わず職場、学校に15分で行ける街へ

3分の2が自転車道に

 今回のヨーロッパへの旅で、一番印象に残ったのはパリでした。
 観光客なら誰もが行くルーヴル美術館やパリ市役所の横を通るリヴォリ通りの3kmの区間が大きく変わっていました。
 車専用だった2車線の一方が自転車道に転用され、以前からある自転車道と合わせると、道路の3分の2を自転車道が占めるまでに。残りの車線もバスやタクシー、緊急車両等、許可車だけしか通れません。

3分の2が自転車道になったリヴォリ通り。(右の建物はルーヴル美術館)

「自転車の都」をめざす。

 パリでは、イダルゴ市長が「世界の自転車の都」をめざし、「通勤交通の5%に過ぎない自転車のシェアを、2020年までに15%まで高める」ことを目標に自転車道の整備を進めてきました。
 コロナ禍で公共交通が避けられ、自転車が急に増えたため、「コロナピスト」と呼ばれるブロックで車道を区切った自転車道が臨時で作られましたが、それが現在、正式な自転車道として次々と整備されています。走っている自転車も10年前に来たときと比べて驚くほど増えました。
 以前は車専用だったセーヌ川河岸の道も自転車・歩行者専用になり、多くの人が散策し賑わっています。ルーヴル美術館の隣、チュイルリー公園横からセーヌ川沿いに出る車専用だったトンネルも自転車専用になりました。今でも市内のあちこちで自転車道の工事が進められています。

車専用のトンネルが自転車道に

自転車購入費の40%補助を発表

 8月12日には、低所得者世帯対象に、自転車購入費の40%の補助を出すことが発表されました。
 パリは、「誰もが車を使わず職場にも子供の学校にも、15分で行ける街=15分シティ」を目指しています。24年のパリオリンピック・パラリンピックに向けて、さらに自転車にやさしい、環境と健康にいい街に変わりつつあります。

「滋賀民報」2022年10月9日号より

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自転車がつくる未来 世界最先進地ヨーロッパより

❷「ビワイチ」の本当の目的は?

観光、暮らし…自転車のいいところ

 滋賀県では、「ビワイチ」という言葉をよく聞きます。びわ湖一周サイクリングのことで、日本各地や海外からも滋賀県に来ていただき、地域振興につなげようと、県などが環境整備やPRに力を入れています。
 こうした自転車での観光を「サイクルツーリズム」と言います。そのいいところは、歩くよりも広い範囲をまわれ、車や公共交通と違って、自然の風、その土地の空気を直接感じられること。気になるお店などがあれば気軽に停まって立ち寄れるだけでなく自転車に乗っている人には、地域の人も声をかけやすいので、交流が生まれます。その結果、地域を旅するファン・リピーターを増やすことができるのです。

様々なスポーツ自転車が揃う米原駅サイクルステーション(写真提供:NPO法人五環生活

温暖化防止、健康増進に

 自転車の効用は、もちろん観光だけではありません。車での移動を自転車に替えることでCO2排出量の削減になり、温暖化防止に役立ちます。その上、自転車での運動は、メタボ防止や健康増進に効果があります。
 また子どもが自転車で小さな冒険をすることで自立心とバランス感覚が養えます。高齢者には免許返納後の交通手段にもなります。
 自転車を好きになっていただくと、普段の生活でも自転車を使うようになると思います。自転車は今、日本だけでなく、世界中で未来の交通手段として注目され、利用環境の整備が行われています。

湖岸道路に整備された自転車レーン

ヨーロッパは最先進地

 自転車の最先進地域・ヨーロッパ各国を見てみると、自転車が日本で多くの人が考えているより、ずっと大きな可能性を持っていることがわかります。
 次回からは、私が今年5〜8月に自転車でまわってきた、ヨーロッパ各国・各都市の自転車の使われ方や利用環境についてお伝えしていきます。

「滋賀民報」2022年9月11日号より

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自転車がつくる未来 世界最先進地ヨーロッパより

❶日本の自転車は「ガラパゴス」状態

自転車は世界で注目を浴びる交通手段

 はじめまして。自転車が大好きで、その良さを広める活動をしている藤本芳一と申します。
 私が自転車の魅力に取り憑かれたのは30年ほど前のこと。初めての長距離サイクリングで、美しい自然と人々との出会いに感激したことがきっかけです。以来、47全ての都道府県、海外50ヵ国へ。今では、サイクリングの推進、自転車マップづくりを仕事にしています。今年5月からは、フランス、スペイン、ドイツなどを走っています。
 今、自転車は環境、健康、観光にいい交通手段として注目を浴びています。今回の連載では、自転車先進国と言われるヨーロッパ各国の自転車事情をお伝えし、自転車の良さ、可能性を知っていただければと思います。

ヨーロッパでは…

 ヨーロッパでは、日本では見かけないような自転車によく出会います。ドイツなどでは2人乗りタンデム自転車が普通に売られています。車イスと一体になった自転車もありました。
 日本と大きく違うのが、「子ども乗せ自転車」です。ドイツなどヨーロッパでは、写真のような自転車が一般的で、電動アシスト付きもあります。日本のものよりずっと安定していて安全で、荷物も載せられます。

ドイツミュンヘンで見かけた「子ども乗せ自転車」

どこへでも行けます

 日本で「自転車」というと、多くの方が1万円前後の「ママチャリ」をイメージされますが、近くのスーパーや駅までちょっと乗っていくだけの自転車は日本独特なのです。
 ドイツの自転車店に行くと、7万〜10数万円くらいが一般的な自転車で「トレッキングバイク」と呼ばれます。日本で言う「クロスバイク」に荷台や泥除けを付けて実用的にしたもの。よい部品が使われ、質も高く、軽くてスピードが出ます。なので街中なら自転車でどこへでも行けます。
 ヨーロッパでは交通環境も違います。車は自転車に配慮してスピードを落としたり、間隔をあけます。交差点に自転車が進入するときは車が止まって待ちます。実際、自転車で走ると「交通手段として認められている」と感じます。なので上の写真のような自転車でも問題なく走れます。
 日本の自転車とその環境は、国際標準からかけ離れた「ガラパゴス」状態ではないでしょうか。

ドイツの一般的な自転車(CUBE Bikesサイトより)

「滋賀民報」2022年8月7日号より

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